私が「ヒプノセラピー」で体験した、転生の自分の物語。
あなたの奥深くにも、「あなただけの物語」が眠っているのです。
そして、長い年月大切にかかえてきた愛を、
今この瞬間を生きるあなたに気付いてもらえる日を、ずっと心待ちにしているのです。
そのとき、インドのどこか。
埃っぽい大地と石でできた大きな街、色とりどりの布でできたテントで飾られた大きな市。
いろんな国から来た長い隊商の列が城壁からまた街に入ってきたところ。
ここは砂漠の中のオアシスにできた中堅都市。
幼馴染の憎いあいつのご先祖は、どうも王家に近い貴族のおウチの血筋だったらしいけど、今はよんどころ無い事情で別段そんなにお金持ちじゃなかったし、着てるものも商人の子である俺らと大して変わらなかったから、いつも皆とまじって仲良く遊んでいた。
そーゆーことって、
中央の都市なら難しいことらしいんだけれど、適度にゆるくてとても豊かで。色んな国のひとや神様がいる田舎なこの街では、身分がどうのとことさら咎める大人もいなかった。
そういった訳で、
市の人ごみを掻き分けては、
蛇持ってみたりう○ちを木に刺してみたりして、
女の子を追いかけ回して泣かせるのが俺ら男子の一番ワクワクする遊びだったりするわけだけど。
いつもあいつが仁王立ちして邪魔をするんだよね。
ほんといっつもそう、あいつが邪魔すんのな。
「あんたたち、やめなさいよ、ホントばっかじゃないの!?」
「うわ!、出た!、お前の方こそばーかばーか!」
意地悪したって泣きもしない、顔色一つ変えないで、たまに親に言いつけたりするあいつ。
超ムカつく姉御なあいつが急に可愛く見え始めたのはいつからだったっけ?
その頃にはもう、さすがに一緒に遊ぶことはなくなっていたけれど、
なんかあったときはいつもなんとなく、お互いに相談乗ったり乗られてみたり。
そのうち、
たまに塾の帰りにすれ違ったりすると、どういうわけだか良く目が合うようになってきて。
…目が合うと、もうどうにも変な気持ちになるんだ。
ぎゅーっとなるような、苦しくなるような、そんな変な感じ。
友達が間に割って話かけてきても、お互い目が逸らせない、もうほんとそんな変な感じ。
「なんだよ、お前あいつのこと好きなの?」
一緒に遊んでた仲間のひとりにからかわれてやっと解った、そうか俺あいつのことが好きなのかも知れない。
そう、多分あいつもきっと、俺のこと…。
「ちっがうよ、やめろよ!、あいつのことなんか好きなわけねえだろ!!」
わざと聞こえるように大きな声で返事をしたのは、思春期特有の、男子あるある。
「あいつとだけはそういう気持ちにはならないね!」
そういわないと、さらに冷やかされるの解ってるから。
強がって言ってはみるけど内心はもうおかしくなりそうなくらいさ。
ああ、天の邪鬼でつまらん意地をはる自分がアホみたいだ。
あいつが一瞬だけ眉をひそめてとても悲しそうな顔をするのが見えた途端、キリで刺されたように鋭く胸が痛んだけれど。
年頃の男子としてはもう、仲間に女子との仲を冷やかされる以上に格好悪くて恥ずかしいことはないのだ、心の底からそれだけはご勘弁なのだ。
通りの向こうからいつも通りのあいつの怒声が飛んできてほっとする。
「ふざけんじゃないわよ!、あんたなんかこっちの方からお断りよ!、死ね!」
それから何年か経って、
すっかり女らしくなったあいつを俺の嫁にって話が出たときは、
両親同士が交わしてる結納金の話や、結婚することによって格が上がるうちの商人としての地位なんて全く関係ないほど、飛び上がりたくなるくらい嬉しかったことを覚えている。
うちが裕福でよかった。
俺に商売の才能があってよかった。
おそらく結婚式は街を上げてのとても豪華なものになることだろう。
花嫁衣装のあいつは他のどんな花嫁よりも綺麗に決まっている。
実は街でも有名な美人に育っていた彼女は、その血筋や気立ての良さから、誰が夫になるのかと注目の的だったのだ。
幼い頃からつかず離れずそばにいるのが当たり前だったあいつが、この夏にやっと俺の妻になる…。
不思議な気持ちではあったけれど、きっと夫婦になったらたくさんの子供に囲まれて、俺はとても幸せな、この街一番の花婿になれるに違いない。
そんな妄想と期待で胸がいっぱいだった頃、
夕方あいつん家のそばを通ると、
外のベンチで一人で座ってる彼女を見かけたんだ。
「食べ過ぎ?」
いつもの調子で声をかけると、
「…ほんとあんたって最低。」
と涙声で小さく返事をした。
「もう聞いてるの?、結婚の話。」
聞いてるよ、と目で返事をすると、大きくため息をついた。
「嫌なら断っていいのよ、どうせうちの父があんたのうちからの援助を目的に仕組んだ結婚なんだから。」
「…そうらしいね…。」
ちょっとまって?
俺はお前と結婚と聞いてすごく嬉しかったのに、お前はどうしてそんなに辛そうなわけ?
他に何?、実は好きなやつでもいるの?
彼女の様子を見て俺は急にものすごく不安になったけど、それに気づかれたくなくて、なるたけ明るい調子で返事をした。
「親がいうことには逆らえないじゃない、お互いさ。」
「あんたはそれでいいわけ?、他に好きな子でもいたんじゃないの?」
彼女が長い髪をかきあげながら俺をじっと見つめる。
俺はだって、もうずっとお前しか好きじゃなかったし。
お前以外の誰かを好きになったことなんてなかったし。
だからお前以外の嫁なんか考えられないし。
いろんな気持ちが胸のなかで吐きそうになるくらいぐるぐるしてたけど、
「…まぁ、ね。仕方ないんじゃない?」
口から出たのは、確かそんな言葉だけだった。
俺はどうしてこいつの前にでると、不思議なくらい自分の気持ちを正直に言えなくなってしまうんだろう。
身分が上の彼女に舐められたくなかっただけなのか、
それとも本当の気持ちを伝えて馬鹿にされるのが怖かったからなのか。
何を恐れていたのかはよくわからないけれど。
どうしても、天の邪鬼な自分から抜け出すことが出来なかった。
「仕方ない…か。」
彼女が大きな目に涙を貯めて俯いてしまっても、こんな時に掛ける洒落た言葉を俺は知らない。
それどころか、
気だてが良いと評判の彼女に、
こんな悲しい顔をさせられることが出来るのは、もしかしたら俺だけなんじゃないかなんて、そんな愚にもつかない優越感に酔ってみたり。
まずは結婚式の時にでも。
そのときがダメなら夫婦になって、子供が出来たときにでも。
いつか言えるようになったら、そのときは自分の今までの気持ちを全部伝えればいいや。
だって、誰よりも大切で大好きなんだから、きっとこいつにも何となくは伝わってるはず。
「家に対する援助はきちんとするから、その点は安心していいよ。」
今はこんな感じも許される、きっとね…。
だけど結局、
結婚式の時にも。
とても綺麗に装ったあいつに「綺麗だよ」って一言を言えないばかりか、
また友達に冷やかされて、
「仕方なく、形式的に結婚したんだ。」
と苦し紛れにした返事を、すぐそばにいた彼女に聞かれてしまうていたらく。
また怒鳴り返してくれるかと思いきや、振り返ると彼女は本当に泣いていて。
ものすごく傷つけてしまったことに触れるのが怖くて、
「だって、ホントのことだろ。」
とさらに追い打ちをかけてしまった。
唇を噛み締めて俯いて、それきり。
彼女はほとんど笑わなくなってしまった。
真っ赤な衣装が小刻みに震えているのを見ても、
それが嬉し泣きじゃないのがわかっていても。
本当はすごく綺麗だと思っていても、優しい言葉一つかけられない自分に心底がっかりしつつも、
どうしても照れくさかったり、何かに負けるのが嫌でほんとの気持ちを伝えることができなくて。
何度身体を重ねても、どうしようもない寂しさばかりが募っていく。
子供な自分に嫌気がさす。
いつか一緒にいるのも辛くなって、仕事がないときはうちから逃げ出し、街で出会った幼い頃の彼女によく似た可愛い子と過ごすようになった頃。
市に出掛けたあいつは、
荷崩れを起こした荷車の下敷きになり、冷たくなって帰ってきた。
誰に対しても優しく素晴らしい女主人だった彼女は、
たくさんの友達や使用人や、多くの花と涙に囲まれて、大広間の床の上でなんだかほっとしたように微笑んでいた。
結婚式と同じ真紅の衣装が眩しくて、彼女の顔がまた眠っているみたいで。
俺は最後に彼女と言葉を交わしたのはいつだったかと一生懸命考えていた。
『こどもが…、出来たみたいなの。』
ほんとはすっごく嬉しかった。
心の中では彼女をお姫様のように抱きあげて、くるくるとその場で踊ってしまいたいくらい喜んでいた。
だけど、
笑わなくさせてしまったのは自分なのに、
彼女が喜んでくれないことに腹が立った俺は彼女の困ったような顔が許せなくて。
どうせならもっと悲しい顔にでもさせてやれ、と思ってしまったんだ。
『…こないだ隣町のあいつと楽しそうに話してるの見たよ。
誰のこどもかも解ったもんじゃないけどね。』
それが、3日前だった。
俺の口から、押さえようもない慟哭がとめどなく溢れ出して止まらない。
もう立ってなんかいられなかった。
自分は一体、
なんと言うことをしてきてしまったのか。
戻らない彼女に、
どう許しを乞えばいいのか見当もつかなかった。
もし本当に神様がいるのなら、
この命を差し出して彼女のかわりに自分が死んでしまいたい。
出来ることなら、
小さな頃からすべてをやり直し、
思っていることを素直に伝え合いたい。
どんなに大切だったのか、
正直に伝えて愛を分かち合いたい。
惚れた女をこんなに不幸にして死なせることになるなんて。
自分が傷つきたくない、
たったそれだけのくだらない保身のために、
俺は今までなんと愚かなことをしてきてしまったのか…。。。。
何年かあと、
商売の都合上後妻を貰って、私はじいさんになるまで生きて行くのだけれど。
一番最初の妻を1日も忘れることなく、その分二番目の嫁や周りの人間を大切にして、口数の少ない穏やかなひととして亡くなりました。
もし、一番目の嫁さんだったひとに今回のタイムラインで出会えるとしたら、性別は男性を希望。
きっと今回は役割を逆にして生まれて来ただろう彼に、私は無様なほど正直に、真正面からぶつかって、
これでもかとコミュニケーションを取ろうとするんだろう。
直感を使った手練手管は通用しなさそうな予感がぷんぷん、怖いけど会ってみたい。
もう会っているかもしれない、大切な誰かなんですけれどもね。。
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